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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19029号 判決

原告

山田喜志夫

鈴木志津子

原告ら訴訟代理人弁護士

内野繁

被告

山田久之

山田栄子

被告ら訴訟代理人弁護士

大月公雄

主文

一  被告山田久之は、原告山田喜志夫に対し、別紙物件目録一記載の土地について、真正な登記名義の回復を原因として原告山田喜志夫の持分一二分の一の所有権移転登記手続をせよ。

二  被告山田栄子は、原告らに対し、別紙物件目録二記載の建物について、真正な登記名義の回復を原因として原告らの各持分四分の一ずつの所有権移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件は、原告ら及び被告ら兄弟姉妹が、遺産である土地建物の所有権を争っているもので、現在の登記のとおりの遺産分割協議が成立したか否かが中心的な争点である。原告らは、右遺産分割協議の成立を全面的に争い、仮に合意があったとしても、強制競売の対策として行った通謀虚偽表示であると主張し、一方、被告らは、登記は遺産分割協議に従って行っているし、原告らの相続回復請求権は五年の消滅時効が完成したと主張している。

二  争いのない事実

1  別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)は、昭和二二年八月一九日、原告ら及び被告らの父山田喜栄治が買い受け、昭和二四年ころ、地上に同目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築し、家族と同居しながら書籍販売業を当初は個人で、途中から有限会社山田書店として経営していた。

山田喜栄治は、昭和四七年一〇月七日死亡し、相続が発生した。法定相続人は、山田喜栄治の妻山田ハルと子の原告ら及び被告らであったが、遺産分割協議はされないままであった。なお、山田ハルは、平成元年九月一五日死亡した。

2  本件土地には、代位者宇田川安三郎、代位原因昭和四一年七月四日付け手形判決に基づく強制執行として、昭和五〇年一二月一七日受付第四六七三五号をもって、昭和四七年一〇月七日相続を原因とする、山田ハル持分六分の二、原告ら及び被告ら持分各六分の一の所有権移転登記がされ、また、昭和五一年二月二〇日受付第六一二二号をもって、同年一月一二日遺産分割を原因とする、原告鈴木志津子及び被告山田栄子各持分一二分の一の山田ハル持分一部移転登記がされ、さらに、同年二月二〇日受付第六一二三号をもって、同年一月一二日遺産分割を原因とする、被告山田久之持分六分の一の山田ハル持分全部移転登記がされている(以下「山田ハル持分移転登記」ともいう。)。

一方、本件建物には、昭和五一年二月六日受付第四三一九号をもって、被告山田久之の所有権保存登記がされ、さらに、平成四年九月九日受付第二一八八三号をもって、同年九月九日贈与を原因とする被告山田栄子の所有権移転登記がされている。

3  宇田川安三郎の強制競売の申立てに基づいて、東京地方裁判所は、昭和五〇年一二月二三日、原告山田喜志夫の本件土地持分六分の一について、強制競売開始決定をし、同日、その旨の登記がされたが、昭和五一年一月六日取り下げられたため、同月一二日、右競売登記の抹消登記がされた。

4  昭和五〇年一二月二四日、宇田川安三郎から原告ら山田喜志夫の持分について強制競売の申立てがされたのを知った山田ハル、原告ら及び被告らは、急遽被告山田久之宅に集まって善後策を協議した。

山田ハル、原告ら及び被告らが署名押印した遺産分割協議書(乙第一号証)には、本件土地は原告鈴木志津子及び被告らが各三分の一ずつを相続し、本件建物は被告山田久之が単独相続する旨記載されている。

5  原告山田喜志夫は、昭和五一年三月二九日、東京家庭裁判所に、山田ハル、原告鈴木志津子及び被告らを相手方として遺産分割調停の申立てをしたが(同裁判所昭和五一年(家イ)第一七〇〇号)、その後取り下げた。

三  原告らの主張

1  昭和五〇年一二月二四日、宇田川安三郎の強制競売の申立てを知った山田ハル、原告ら及び被告らは、あわてて被告山田久之宅に集まり協議したが、不動産業を営む被告山田久之が、「このままでは取られてしまうので、問題が解決するまでの間、仮に原告山田喜志夫の名義をなくしたほうがよい、その手続は自分がやるから」と提案したので、遺産を保全するための当面の措置として本件土地については登記上原告山田喜志夫以外の者の所有名義にし、本件建物については被告山田久之の単独名義にすることで全員了解し、その手続を被告山田久之に任せた。協議内容は、右がすべてであり、それ以上に具体的な合意はしなかった。そこで、翌二五日、各自印鑑登録証明書を持ち寄り、被告山田久之が用意した白紙の遺産分割協議書(乙第一号証)一通に署名押印し(住所は記載していない。)、同被告に交付した(ところが、被告山田久之は、その後右合意とは異なった文言を勝手に記載したもので、原告らは、これを平成四年になって初めて知った。

2  原告山田喜志夫は、強制競売の申立てを取り下げてもらうため、宇田川安三郎と直ちに交渉し、昭和五一年一月五日、同人に対して四〇〇万円を支払って解決したので、被告山田久之にその旨を伝えて登記手続をしないように申し入れたが、同被告は、これを聞き入れず、本件建物の保存登記及び原告鈴木志津子及び被告らの山田ハル持分移転登記をした。さらに、被告山田久之は、平成四年になって被告山田栄子に対し、本件建物の贈与を原因とする所有権移転登記をした。

3  以上のとおり、遺産分割協議書に記載されたような協議は成立していないし、山田ハル持分移転登記のような遺産分割協議も成立していない。仮に、何らかの遺産分割協議が成立したとしても、強制競売の申立てに対する遺産保全のための通謀による虚偽意思表示であって無効である。

4  原告山田喜志夫の前記調停の申立ては、遺産分割を求めたものであって、遺産分割協議が成立したことを前提にしたものではない。原告らは、平成四年の東京家庭裁判所の調停で、初めて完成された遺産分割協議書を見せられ、内容を知るに至った。

5  原告ら及び被告らは、本件土地建物について持分各四分の一を有するところ、本件土地については、登記上、原告山田喜志夫持分六の一、原告鈴木志津子及び被告山田栄子持分各一二分の三、被告山田久之持分六分の二、本件建物については、被告山田久之の単独所有になっているので、真正な登記名義の回復を原因として請求の趣旨記載のとおりの登記手続を求める。

四  被告らの主張

1  原告山田喜志夫は、昭和二七年ころから山田喜栄治の仕事を手伝っていたが、昭和三九年、同人名義の約束手形を偽造して振り出したため、所持人の宇田川安三郎から原告山田喜志夫及び山田喜栄治が共同被告として手形訴訟を提起され、山田喜栄治は勝訴したが、原告山田喜志夫は敗訴した。これに激怒した山田喜栄治は、原告山田喜志夫を家から追い出したが、周囲の説得もあり、同人が相続権を放棄することを条件に戻ることを承諾した。山田喜栄治の死亡後は、山田ハルが有限会社の代表者となった。

2  昭和五〇年一二月一七日、宇田川安三郎が前記手形判決に基づいて本件土地の代位登記をするとともに、東京地方裁判所に原告山田喜志夫の持分六分の一について、強制競売の申立てをし、同月二三日、競売手続が開始された。

3  右事実を知った山田ハルは、同月二四日夜、急遽原告ら及び被告らを被告山田久之宅に集めて善後策を協議した結果、原告山田喜志夫の責任で宇田川安三郎に弁済し、強制競売の申立てを取り下げてもらうこと、本件土地建物については、山田喜栄治死亡後遺産分割が行われないままであったので、山田ハルの意見に従って、本件建物は被告山田久之が単独で相続し、本件土地については、原告鈴木志津子及び被告らが各三分の一ずつ相続することにした。しかし、本件土地につき既に代位登記がされており、これを変更することを思い付かなかったので、山田ハルの持分三分の一のうち六分の一を被告山田久之に、各一二分の一を原告鈴木志津子及び被告山田栄子に贈与し、登記は税金対策上遺産分割を原因として行うことで協議が成立した。

右協議結果に基づいて、司法書士に文案を依頼し、各自署名押印して作成したものが遺産分割協議書(乙第一号証)である。ただ、本件建物の登記については遺産分割協議書が使用されたが、本件土地の登記は、これとは別個に前記協議に基づいて行われた。登記手続費用等は原告山田喜志夫以外の三名が負担した(乙第二号証)。

また、本件土地については、原告ら及び被告ら共有者の間において、原告山田喜志夫分、原告鈴木志津子・被告山田栄子分、被告山田久之分に三分割して分筆した上、原告鈴木志津子及び被告らの各共有分を合筆する旨の合意がいったんは成立したので、その手続を司法書士に依頼したが(乙第四ないし第一三号証)、原告山田喜志夫が右分割では自分の土地がいわゆる鰻の寝床式の地形になるとして、最後に反対したため、最終的な合意には至らなかった。

4  被告山田久之は、平成四年九月九日、被告山田栄子に対して本件建物を贈与した。

5  仮に、原告らが本件土地建物について相続権を有したとしても、原告山田喜志夫は、昭和五三年七月二七日、前記遺産分割調停の申立てを取り下げた(乙第一八号証)から、相続回復請求権は右以後五年の経過とともに時効により消滅した。被告らは、本件口頭弁論期日において、右時効を援用した。

第三  当裁判所の判断

一  まず、遺産分割協議書作成の経緯についてみるに、前記争いのない事実に、甲第一ないし第五号証、第六号証の一ないし五、第七ないし第一一号証、乙第一ないし第一七号証、原告ら及び被告ら各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  山田喜栄治は、昭和二四年ころから、本件建物一階で書籍販売業を経営し、妻山田ハル、原告ら(長男、長女)及び被告ら(二男、二女)家族と一緒に住んでいた。原告山田喜志夫は、母山田ハルとともに父の家業を中心になって手伝い、昭和三一年に婚姻してからもこれは変わることなく、昭和四七年一〇月の父死亡後営業を受け継ぎ、本件建物の一階及び二階の一部を店舗及び住居として使用してきた。

被告山田久之は、昭和三七年六月に婚姻し、本件土地内に二階建建物を建築し、さらに、平成三年九月、右建物を取り壊して、鉄骨三階建建物を建築し、初めは洋品店を、昭和五二年からは不動産業を営んできた。

原告鈴木志津子は、昭和二七年五月に婚姻し、本件建物から転居した。

被告山田栄子は、本件建物の二階一〇畳の部分を住居として継続的に使用してきた。

2  宇田川安三郎は、昭和五〇年一二月一七日、原告山田喜志夫に対する昭和四一年七月四日付け手形判決に基づく強制執行を代位原因として、被相続人山田喜栄治の相続を原因とする山田ハルらの本件土地の所有権移転登記をした上、原告山田喜志夫の持分について同月二三日、強制競売の申立てをし、同日、強制競売開始決定がされ、その旨の登記がされた。

3  原告山田喜志夫は、同月二四日、右事実を知り、あわてて山田ハル、原告鈴木志津子及び被告らに連絡して、被告山田久之宅に集まってもらい、協議した結果、被告山田久之の発案に従い、このまま事態を放置しておくと、本件土地建物の所有権が他人に移ってしまうので、原告山田喜志夫が宇田川安三郎と至急話し合って解決に努める一方、一時的な措置として、本件土地について原告山田喜志夫の登記名義をなくし、本件建物について被告山田久之の単独名義にすることで協議がまとまり、今後の手続は被告山田久之に任せることになった。

そこで、被告山田久之の指示に従い、翌二五日、各自が印鑑登録証明書を取り寄せて被告山田久之に交付し、同被告が用意した書面(未完成の遺産分割協議書)に、各自が署名押印した。以後の手続は、すべて被告山田久之が司法書士に依頼して行った。

4  原告山田喜志夫は、直ぐに宇田川安三郎及び弁護士と話合いを開始し、翌昭和五一年一月五日、同原告が宇田川安三郎に対して四〇〇万円を支払って全面解決した(そこで、強制競売登記は、同月一二日、抹消された。)ので、その旨を被告山田久之に伝え、登記手続を止めるよう求めた。しかし、同被告は、これに応じず、同年二月六日、本件建物について保存登記をし、更に、同月二〇日、本件土地について山田ハル持分移転登記をした。

なお、同月二〇日当時、被告らは、原告山田喜志夫に不利益を与えることを目的として、本件土地について原告鈴木志津子及び被告らが山田ハル持分移転登記を受けることを前提にして、本件土地を、原告山田喜志夫分、原告鈴木志津子・被告山田栄子分及び被告山田久之分に三分割して分筆した上、原告山田喜志夫分以外の部分を共有にして合筆することを計画したが(乙第四号証)、原告山田喜志夫から登記申請書類等への署名を拒否されたため、計画が挫折した。しかし、右のとおり山田ハル持分移転登記は予定通り行った。

5  ところで、山田ハル、原告ら及び被告らが、昭和五〇年一二月二五日に各自署名押印した書面は、昭和五一年一月一二日付け遺産分割協議書(乙第一号証)として完成された。

右協議書には、「本件土地は原告鈴木志津子、被告山田久之及び被告山田栄子が各三分の一ずつ相続する。」「本件建物は被告山田久之が相続する。」「右遺産の協議をなした。」趣旨の記載があるが、署名以外の本文の作成に原告らは一切関与しておらず、かつ、作成日が実際に協議した日とは異なっているほか、記載通りならば、本件建物の敷地利用関係が未解決のままになるし、加えて、後にも述べるとおり、前記協議の内容に照らしても、右署名押印当時右本文が既に記載されていたものとは認められない。のみならず、本件土地の登記内容(山田ハル持分移転登記)と遺産分割協議書の内容は明らかに異なっており、本件証拠を精査しても、その理由を合理的に説明することは困難であるといわざるを得ない。

6  原告山田喜志夫は、昭和五一年二月、本件土地建物について各登記がされていることを知り、同月二八日、本件建物の持分六分の一につき処分禁止仮処分をし、次いで、同年三月二九日、遺産分割調停を申し立て、昭和五三年七月まで調停が行われたが、同居の山田ハルから兄弟争いは止めるよう諭され、同月二七日に取り下げた。そして、山田ハルは、平成元年九月に死亡した。

ところが、平成三年に被告山田久之が旧建物を取り壊して新築したことが発端となって、被告山田栄子が本件建物二階自室への外階段の取付工事をしようとしたのに対し、原告山田喜志夫が自宅の玄関が使用困難になるとして工事に反対したことから、再び深刻な紛争が生じた。原告山田喜志夫は、平成四年四月、東京家庭裁判所に調停の申立てをし、話合いが行われたが、同年九月不調に終わった。そして、その直後の同月九日、被告山田久之は、被告山田栄子に対して本件建物の所有権移転登記をした。そこで、原告らは、同年一〇月に本訴を提起した。

二  以上の点について、被告山田久之は、本人尋問及び陳述書において、おおむね、遺産分割協議書記載のとおり協議が成立し、右協議書の本文が全部記載された後の昭和五一年一月中旬に全員が署名押印した、右協議書は、司法書士に依頼して文案を作成してもらった、本件土地について右協議内容と登記が異なるのは、持分が既に代位登記されていたので、これを前提にして山田ハルの持分を誰にあげるかを協議したためである、昭和五〇年一二年二四日か年明けかははっきりしないが、全員協議の上、本件土地の原告山田喜志夫の持分はそのままにし、山田ハルの持分のうち六分の一を被告山田久之に、各一二分の一を原告鈴木志津子及び被告山田栄子に贈与する、本件建物については、原告山田喜志夫は不始末をしたし、原告鈴木志津子は嫁いでいたし、被告山田栄子もその可能性があったので、被告山田久之の単独所有にすることになった趣旨の供述をしている。

また、被告山田栄子は、本人尋問及び陳述書において、おおむね、遺産分割協議をした結果、山田ハルが本件土地の持分を原告山田喜志夫以外の三人に、本件建物の持分を被告山田久之にそれぞれ贈与する、本件土地の原告山田喜志夫の登記持分は認める、ということになった、昭和五一年一月半ばに全員集まり、それまでに合意した持分を確認して遺産分割協議書に署名押印した、そのときは、既に宇田川安三郎の問題は解決していた、署名当時の右協議書の本文は記憶にない、登記費用は原告山田喜志夫を除く三人で負担した趣旨の供述をしている。

しかしながら、前記認定した経緯によると、山田ハル、原告ら及び被告らが昭和五〇年一二月二四日夜、急遽協議することになった唯一の原因は、宇田川安三郎によって本件土地の原告山田喜志夫の代位登記の持分が強制競売される恐れがあり、そうなれば本件建物も含めて大変な事態になることを心配したためであり、その対策として被告山田久之から、原告山田喜志夫の登記を外すとの提案がされ、全員がこれを承諾し、本件建物は同被告の単独所有にすることで協議がまとまり、同被告に以後の手続を任せることにし、翌日、同被告が用意した書面に各自署名押印したこと、原告山田喜志夫は、宇田川安三郎と交渉して翌昭和五一年一月五日、和解が成立したので、この時点で最早前記対策を進める必要性はなくなったのに、被告山田久之は、これを知りながら、司法書士に依頼していた遺産分割手続を続行して遺産分割協議書を仕上げ、登記手続を行ったこと、しかし、本件土地の登記は遺産分割協議書の内容通りにはなっておらず、齟齬した理由を合理的に説明することは困難であること、被告らの遺産分割協議成立の時期、内容及び右齟齬の理由等についての供述は不明確で、被告らが供述するように、本件土地の原告山田喜志夫の代位登記の持分を認め、山田ハルの持分をその他の者に贈与したというのであれば、その内容通りの遺産分割協議書を作成すれば足りるし、作成につき何ら障害はなかったはずであること、もし、被告ら主張のような確定的な遺産分割協議が成立したとすると、原告山田喜志夫は、本件土地持分六分の一を取得するのみで、営業の基本の店舗及び住居の権利を失うことを承諾したことになるが、懸案が和解で解決されたことを併せ考慮すると、同原告がそこまでの譲歩を余儀なくされる事情も格別存しないから、承諾したとは容易には考え難いこと、その他前記認定事実に照らすと、被告らの主張を採用するのは困難であるといわざるを得ない。

以上によると、本件土地の山田ハル持分移転登記及び本件建物の被告山田久之の保存登記は、いずれもその原因たる遺産分割協議あるいは贈与の事実がないのにされたものといわざるを得ない。なお、本件建物について被告山田久之の単独所有とする遺産分割協議が成立したと認め得る余地がないではないが、右は前記認定事実によると通謀虚偽表示に当たることが明らかである。

そうであるとすれば、原告ら及び被告らは、本件土地建物について持分各四分の一を有することになる。

三  被告らは、相続回復請求権の消滅時効を主張するので判断する。

1 共同相続人のうちの一人又は数人が、相続財産のうち自己の本来の相続持分をこえる部分について、当該部分の表見相続人として当該部分の真正共同相続人の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分であると主張してこれを占有管理し、真正共同相続人の相続権を侵害しているため、真正共同相続人が右侵害の排除を求める場合には、民法八八四条の適用があるが、表見相続人において、その部分が真正共同相続人の持分に属することを知っているとき、又はその部分につき表見相続人に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときには、同条の適用が排除されると解すべきである(最高裁判所昭和五三年一二月二〇日、大法廷判決民集三二巻九号一六七四頁)。

2 これを本件について検討するに、前記認定事実によると、共同相続人の一部である被告らは、本件土地建物について、他に共同相続人として原告らがいることを知りながら、本件土地については山田ハル持分移転登記を、本件建物については被告山田久之の単独登記をし、更に被告山田栄子に移転登記をしたものであって、しかも、被告らの本来の持分をこえる部分につき被告らに相続による持分があるものと信ぜられるべき合理的な事由があるとは認められない。したがって、原告らの請求については、民法八八四条の適用が排除されるというべきであるから、被告らの消滅時効の主張は理由がない。

第四  結び

よって、原告らの請求はいずれも理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官大藤敏)

別紙物件目録

一、渋谷区笹塚二丁目一二番四

宅地 168.52平方メートル

ニ、渋谷区塚二丁目一二番地四

家屋番号 一二番四の二

木造瓦葺二階建 居宅店舗

床面積

一階 88.79平方メートル

ニ階 80.10平方メートル

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